勤怠管理を行う上で知っておきたい労働基準法
近年、様々なワークスタイルが認められ、自由な労働が増えている反面、厚生労働省が発表した平成29年度の総合労働相談は10年連続で100万件を超えるなど、労働に関するトラブルは増え続けています。トラブルの内容は人間関係など様々ですが、企業の管理責任に関わるものもあり、健全な労働環境の維持は、企業側が十分な対策を講じなければいけないことの一つと言えます。
過剰労働、賃金未払いに関わるトラブルの発生を防止するためにも、企業は正確な勤怠管理を行いデータを保管する必要があります。勤怠管理など、労働に関わる管理を行うために把握しておかなければいけないのが労働基準法です。
労働基準法は労働者を守るための法律です。企業は常に労働基準法に違反しないように、従業員に対し適切な労働条件および労働環境を用意しなければいけません。法改正を含め、労働基準法に常に対応し、適切な管理体制を継続するには属人的ではなく、企業内での仕組みづくりに取り組まなければいけないでしょう。
労働環境を適切に保護しなければ、大きなトラブルが生じるリスクが潜んでいることを忘れてはいけません。事業規模に関わらず発生する可能性があるものです。まさに、すべての事業者が押さえておかなければいけないテーマとも言えるでしょう。
今回は、勤怠管理に関わる労働基準法にスポットをあて、労働に関わるトラブルを抑制できる正確な勤怠管理に役立つ情報をご提供します。
目次(クリックでジャンプします)
労働基準法とは
労働基準法は、労働者の労働条件における最低基準を定めたものです。通称「労基法」と呼ばれています。正社員、契約社員、アルバイトやパートといったすべての労働者に共通して定めるものであり、企業と労働者の間で労働基準法で定めている内容以下の労働条件で契約を締結しようとしても無効です。法律で定めることにより、すべての労働者を守っていると言えます。
1947年に制定された労働基準法は、労働組合法、労働関係調整法と合わせて労働三法と呼ばれています。学生時代に社会科の学習などで名称を記憶している方も多いのではないでしょうか。施行から長い年月が経っている法律ではありますが、大企業をはじめ、労働基準法違反は新聞やテレビのニュース等で度々報道されています。時代の流れによる変化に伴う改正を経ながら、労働者の生存権の保障に役立っている法律です。
労働基準法で定めている内容は、賃金の支払いや労働時間、休憩、休暇、働くことのできる年齢、補償をはじめとしたものです。使用者となる企業はこのすべてを理解し、遵守しなければいけません。万が一、労働基準法に違反してしまうと、懲役や罰金などが科せられる可能性があります。強制労働や解雇に関するトラブルも多いため、会社の存続のためにも労基法の遵守には特に気をつける必要があります。ずさんな管理でも、問題にならなければ企業経営は成り立ちますが、問題が発生してからでは取り返しがつかない事態に陥る場合があるので注意しましょう。
労働基準法における勤怠管理の必要性
企業は従業員の労働時間を正確に把握しなければいけません。労働基準法では、原則として1週間の労働時間は40時間を超えてはならないとしています。長すぎる労働時間はストレスなどによる心身の負担が大きく問題視されています。40時間を超える労働を行う場合は、労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出を行わなければいけません。
企業が法定労働時間を上回る時間、従業員を働かせる場合は、あらかじめ労働者の過半数により構成される労働組合、もしくは、過半数を代表する者との間に時間外労働・休日労働に関する協定を締結しなければいけません。締結だけではなく、労働基準監督署に届け出なければ認められないので注意が必要です。
このことは、労働基準法第36条に定められており、一般的に36協定(サブロク協定)と呼ばれるものです。このように勤怠管理は労働基準法上、必要なことであり、健全な企業運営のためにもしっかりとした仕組みづくりが必要です。使用者である企業が行うべき措置を正確に把握しましょう。
使用者が講ずべき措置に関するガイドラインとは
厚生労働省は、2017年1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定めました。具体的な内容は以下です。
(1)始業・終業時刻の確認および記録
(2)始業・終業時刻の確認および記録の原則的な方法
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認および記録を行う場合の措置
(4)賃金台帳の適正な調製
(5)労働時間の記録に関する書類の保存
(6)労働時間を管理する者の職務
(7)労働時間等設定改善委員会等の活用
引用元:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
このようなガイドラインに基づいて、労働時間を適切に管理する責務を果たさなければいけません。ちなみに、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。こういった細かな基準についても正確に理解した上で、適切な措置を講じなければならないのです。
人間によるアナログ作業
タイムカードの打刻、表計算ソフトへの入力、手書き出勤簿作成といったアナログ手法です。表計算ソフトによる勤怠時刻の入力は一見デジタルに感じますが、いつでも打刻できるため正確性がありません。集計作業に手間がかからないというメリットはあるものの、人為的なミスが常につきまといます。
また、手書きの出勤簿であれば、より一層ミスが起こりやすいことが懸念されます。ただ、いつでもどこでもすぐに導入できるというメリットはありますので、端末やインターネット環境がないところでも、従業員任せにはなりますが記録が可能です。しかし、集計作業は別途行わなければいけないため、計算ミスのリスクとともに対応する人件費も発生します。
労働基準法の遵守という観点で考えると、不正確になってしまう部分が多く、リスクを抱えた勤怠管理手法と言えるのではないでしょうか。労働基準法を守る正確な運用を行うためには、勤怠管理システムの利用が妥当でしょう。勤怠管理システムの利用にはコストが発生するため、予算の確保が必要ですが、システムを利用しないアナログ管理は、スタッフにかかる時間負担が大きくなるため、人件費が膨らんでしまう懸念が拭い去れません。
勤怠管理システムの利用
システムにより正確な勤怠打刻と集計が可能になります。社外で働いている従業員でも、スマートフォンのGPS機能を利用することで勤怠の打刻位置まで記録できます。働きすぎている従業員をアラートで知らせるといったリスクヘッジ機能を搭載している勤怠システムもあります。法改正にも対応しているため、確実な法律遵守が可能です。
月額利用料が発生するため予算の確保は必要ですが、アナログ管理にかかる人件費は不要になるため、コストメリットも高いと言えます。利用する従業員数により月額使用料が異なるケースが多いものの、一人当たりのコストが200円程度という安価なものもあります。
まとめ
今回ご紹介したように、「正確な勤怠管理は企業を守ること」ではありますが、「従業員に安心して働いてもらえる環境づくり」にも役立っているのです。労働時間を正しく計測して、記録を残し、労働契約のもと給与が支払われるのは一見すると当然と思いがちですが、透明性の高い管理により、トラブルを気にせず安心してパフォーマンスの高い仕事ができるようになります。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の内容に沿った勤怠管理は仕組みのつくり方によっては、システムを導入しなくても対応できるでしょう。しかし、効率的かつ高い正確性を念頭に考えると、最も有効な方法は勤怠管理システムの利用と言えるのではないでしょうか。組織が大きいほど、IT導入の効果はわかりやすくなります。ITツールについて敷居が高いと感じる方もいらっしゃいますが、最近はユーザビリティにこだわりを持った開発企業が多いので安心です。サポート体制の充実など、サービス提供元各社は常に進化を続けています。
また、労働基準法をはじめ、法律には改正がつきものです。労務に関わる社員は当然、改正内容を熟知している必要がありますが、忙しい日々の業務の中では漏れが発生してしまう場合があります。勤怠管理システムの場合、アップデートにより法改正にも対応でき、人為的な改正対応ミスを防止できるのもメリットでしょう。もちろん、すべての勤怠管理システムが法改正に対し確実にアップデートするとは限りませんので、そういった対応をしっかりと行なっているシステムを選定することが大切です。
各企業のコンプライアンス対応に注目される中、労働基準法の遵守もその一つです。労務関連のトラブルは、採用活動において有能な人材が集まりにくくなるなどの影響を及ぼしてしまう可能性があります。企業成長にも関わる課題として、労働基準法を確実に遵守できるように取り組みましょう。